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森の賢者になりたい

【NFSHP】 迷走期の佳作

長寿コンテンツには迷走がつきものなんだろう。刑事ドラマ『相棒』はコメディタッチのバディモノから社会派サスペンスに舵を切ったりするし、夏の風物詩であるガリガリくんなんてもはやコーンポタージュだのナポリタンだの、ホントに美味くなると思って作ってんのか、はたまたたちの悪いギャグなのかわかったもんじゃない代物を乱発している。

それはゲームでだって全く同じだ。数えるのもめんどくさくなるほどの本数が出ているレースゲームの大御所、ニード・フォー・スピードシリーズは、最近でこそカスタマイズ重視のクルマゲームとして差別化できているようにも見えるが、2000年代後半からは良く言えば多彩、悪く言えば迷走に他ならない、統一性のかけらもないタイトルを制作スタジオをとっかえひっかえしつつ出しまくっていた。ニード・フォー・スピード ホットパースート(NFSHP)もまさにその最中に産声を上げた、言うなれば迷走期の作品のひとつだろう。

アメリカ、シークレストカウンティ。カリフォルニアのボードウォークめいた海岸線から、はたまたグランドキャニオンを思わせる乾燥地帯、雪の解けない年中真冬の山岳地帯まで、アメリカの景色を全部盛りしたような欲張りな大地。そこにアクセル全開でぶっとばすのにおあつらえ向きなでっかい道路がトッピングされてるもんだから、その道路事情は言うに及ばず無法者どもによるストリートレースの呼び水となった。

どっからそんな金が沸いてくるのか、日夜行われる超高級車だらけの共同危険行為。住民たちの安全が脅かされている状況に、我らが国家権力、警察も黙っちゃいない。シークレスト群警察は違法レーサーに対抗し、インターセプター部隊に下手な一軒家よりも値の張るスーパーカーを配備しまくるという致命的に偏差値の低そうな対抗策を実施。オービスでも置いてドーナツ頬張ってりゃいいものを、アメリカンポリス十八番のPITマニューバ通り越した捨て身タックルで違法レーサーを逮捕、というか処刑する。そしてプレイヤーは、違法レーサーと警察官の身分を反復横跳びしながら、数億円規模のケイドロに興じるのだ。

クルマでやるぶつかり稽古みたいな、IQが著しく欠如した絵面に既視感を覚える人も少なくないのではないだろうか。それもそのはず、今作を開発したのは『バーンアウト』シリーズでお馴染みのクライテリオン・ゲームズ。ちょうどこの時期には今も色あせぬ名作、『バーンアウト・パラダイス』でスマッシュヒットを達成していたのもあってか、NFSシリーズの制作スタジオとして白羽の矢が立ったのだろう。

そんじゃあ『NFSHP』はNFSの皮を被った『バーンアウト』なんじゃないの、と思うかもしれない。というかこの後もう一本出たクラテイリオン製のNFSも含めて巷ではそんなふうに言われている気がするが、個人的にはそれは半分正解、半分ハズレ。『バーンアウト』と明確に違うのは、登場するクルマがすべて、現実の有名自動車メーカーの手になる実車であるということ。そしてそれとのトレードオフとして、笑えてくるまでにクルマがグッシャグシャに潰れていく『バーンアウト』特有の破壊表現が鳴りを潜めたということだ。

バーンアウト』の最大のウリこそ、野放図にクルマでライバルに体当たりして、瞬く間にスクラップを量産する爽快感だろう。破壊に夢中になりすぎて自分が壁に突き刺さっても、スポーツカーが見るも無残にペチャンコになる様を見るのもそれはそれで楽しかったりする。それがNFSHPでは、さしもの自動車メーカーには許してもらえなかったのか、お得意のダメージ描写はせいぜいバンパーが外れるくらいまでにオミットされている。

そこでクライテリオンは、本作が単なる『バーンアウト』の劣化版とならないための異なる味付けを加えた。破壊メインの爽快レースゲームとして世に出すのでなく、簡単操作でスピード感のあるカーチェイスが味わえる、アーケードゲームライクなレースゲームへと方向転換させたのである。

バーンアウト』のそれと違って、NFSHPではライバルに体当たりしても即座に破壊することはできない。それにブーストゲージが大幅に溜まるようなリターンも見られず、車両の破壊を目的とする警察側でのミッションはともかく、レーサーとしてレース中にライバルへと体当たりを働くインセンティブは薄い。

一方で、イベントによってはレーサー側、警察側ともにガジェットが用意される。後続車をパンクさせるスパイクベルト、前方の車をロックオンして電磁攻撃を繰り出すEMPなど、ちょっとしたマリオカートのような雰囲気だ。

ここまででも往年の名作アーケードゲームチェイスHQ』のようなカーチェイス要素、『マリオカート』のようなアイテムの存在などアーケードライクな味付けが目立つが、何よりも強調したいのは、車の挙動特性とコースのレイアウトの相違点である。

バーンアウト・パラダイス』でプレイヤーが運転する車は、そのどれもがクイックな操縦特性を持っていて、その反面、一部車両を除き耐久性はあまり高くなく壁や路上駐車された車への激突は即・クラッシュを意味する。加えて決まったコースはなく、オープンワールドとして構築されたパラダイス・シティの特定の場所から特定の場所へ、その道程を問わず最初に辿り着けば勝ちという無法なルール設定は、前述のクルマのデリケートさと相まって、猥雑な市街を障害物に気を払いつつ疾走し、ライバルにちょっかいをかけつつ最適なルートを探すという非常にスリリングなマルチタスク体験を生むのに一役買っていた。

かわってNFSHPでは、クルマは『バーンアウト』ほどには俊敏な動きをしない。壁に激突すればさすがにクラッシュするがある程度は頑丈だし、ドリフトもブレーキを踏むだけで簡単に実現できる、安定感あるアーケードライクな挙動だ。加えてシークレスト群の道路はやたら広く、路上駐車の類もなく、頭を空っぽにしてアクセルを踏み抜けるようなロングストレートとなだらかなカーブばかりで構成されている。

そして極めつけはCPUの接待プレイ。このゲーム、どれだけ速く走ってもレースの後半に差し掛かるくらいまではライバルは補正がかかり、猛烈なスピードで抜きつ抜かれつを演出してくる。一方で、こっちが事故ればあんまり速くない速度で待っていてくれるし、だいたいレースの後半ではオーバーテイクできるつくりになっている。結果、NFSHPはゲームをプレイし始めてすぐに、誰でも爽快感と適度な緊張感のあるカーチェイスを楽しめる一本となっているのである。

NFSHPの評価は、満場一致での好評には程遠いだろう。それまでのNFSシリーズで人気を博していた、『ワイルドスピード』に大きく影響を受けたクルマのドレスアップ要素など微塵もなく、登場車種だってその殆どがチューナーや走り屋とは程遠いスーパーカーばかりだ。他方で『バーンアウト』らしさを期待すれば、ことのほかクルマの破壊に重点が置かれていないゲーム性に肩透かしを食らいかねない。実際、当時の俺もその一人だったと思う。

それが10年も経って、なんかの特典でリマスター版を貰ったからと試しにプレイしてみると、これがなかなかどうして良くできている。もちろん完璧な作品ではないし、個人的な思い入れも、ゲームとしてのクオリティ的にも、やっぱり『バーンアウト・パラダイス』のほうがいいゲームだと思う。だけれども、NFSHPも、低く見積もっても佳作と言えるくらいの出来に見えてくる。たまにはゆるく、憧れのスーパーカーで気楽にぶっ飛ばすゲームもいいじゃないか。リマスター版には、PS版限定追加コンテンツ扱いだったあのポルシェ930ターボや、スーパーカーの代名詞・カウンタックなどのクラシックカーなどがついてくるのもウレシイ。

迷走期の佳作、NFSHP。セール常連の一本なので、ゲーセンで数回レースゲームをやるつもりで買ってみるのも悪くないんじゃないだろうか。